2019
09
05
新しい遺言の作り方

法律を学んだご経験がない方でも、六法全書という言葉は耳にされたことがあるかと思います。六法とは、日本のすべての法律の根源である憲法と、最も基本的な社会のルールを定めた五つの重要な法律を指します。

今回、そのうちの一つである民法が改正されました。民法は、財産や家族などに関するルールを定めている法律であり、もしかすると私たちの日常生活に最も深く関わっていると言っても過言ではないかもしれません。

そのため、今回の改正についてきちんと知っておくことは、様々なトラブルを未然に解消するためにも意味があります。

ここでは、民法の中でも「相続法」と呼ばれる分野の「遺言」に関する改正について述べたいと思います。

民法には、誰が相続人となり、被相続人(亡くなられた方)の権利義務がどのように受け継がれるかなど基本的なルールが定められており、そうしたルールが定められた部分は「相続法」と呼ばれています。この「相続法」の中には、「遺言」という章が設けられており、私たちがよく耳にする遺言書(ゆいごんしょ)の作成方法などが厳格に定められています。

「相続法」では、通常の遺言書について3種類の作成方法が定められています。そのうち、どなたでも容易に作成できるのが「自筆証書遺言」です。その名のとおり、自分自身の直筆で書いた遺言書のことです。

これまで、自筆証書遺言は、添付する相続財産の目録を含めて、遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押して作成する必要がありました。今回の改正では、その負担を軽減するため、添付する相続財産の目録については、パソコンで作成した目録や通帳のコピーなど、自書によらない書面を添付することによって自筆証書遺言を作成することができるようになりました。あくまでも、自筆でなくてもよいのは相続財産の目録だけであり、遺言書の文章自体や氏名をパソコンで作成した場合などには自筆証書遺言の効力が認められませんので、ご注意ください。

また、自筆証書遺言は、自宅で保管されることが多いため、捨てられたり、書き換えられたりするなどして、相続をめぐる紛争が生じるおそれのあることが指摘されていました。そこで、法務局において自筆証書による遺言書を保管する制度が令和2年(2020年)7月10日から実施されることになりました。

このように、自筆証書遺言に関しては、大きな改正が行われたり、新たな制度が創設されることとなりましたが、どのような遺言書の内容にするかをきちんと考えておかなければ、せっかく争いが起きないようにと遺言書をのこしておいたにもかかわらず、かえって遺言書が存在することによって相続人の間に無用な争いが起きてしまうことにもなりかねません。例えば、財産を守ってくれた方に多く遺産を渡す内容の遺言書を作成すると、他の相続人から遺留分侵害額請求権がされてしまうかもしれませんし、逆に、財産を守ってくれたにもかかわらず、その方に不十分な遺産しか渡さない内容の遺言書を作成すると、寄与分の主張がされてしまうかもしれません。

いずれにしましても、もしものことがあったとき相続トラブルを未然に防ぐためにあるのが遺言の制度ですので、遺言を書いてみようとお考えの方は、一度、お気軽に法律相談されることをお勧めします。

弁護士 伊藤昌一