2021
09
15
意外と知らないコロナ対策の根拠法令

新型コロナウイルス感染症は、令和元年12月、中国において感染者が確認されて以降、世界規模で感染が拡大するとともに、変異株の発生が次々と確認され、今のところ収束の兆しが見えません。

日本においては、令和2年1月に最初の感染者が確認され、その後、感染が急拡大しました。

そこで、新型コロナウイルス感染症の流行を収束させるため、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法といいます。)の対象に新型コロナウイルス感染症を時限的に加えることを内容とする、特措法の改正案が国会に提出され、令和2年3月に可決・成立しました。

そもそも、この特措法は、平成15年以降に東南アジアを中心として発生した鳥インフルエンザがヒトに感染して死亡した例が報告されたことや、平成21年に豚由来の新型インフルエンザが世界的に流行して日本でも200余名の死亡者が出たこと等を踏まえ、新型インフルエンザの発生時における国民の生命及び健康を保護、国民生活及び国民経済への影響を最小化することを目的として、平成24年4月に成立した法律です。

そして、成立後、しばらくは特措法に基づく措置が必要となるような緊急事態は発生しませんでした。

すっかり耳馴染みとなってしまった「まん延防止等重点措置」は、特措法31条の4に根拠があります。

そして、特措法31条の6により、都道府県知事は、知事が定める期間及び区域において、措置を講ずる必要があると認める業態に属する事業者に対しては、営業時間の変更やその他の措置を講ずるよう要請できるほか、住民に対しては、要請に係る営業時間以外の時間に当該業態に属する事業が行われている場所にみだりに出入りしないことやその他の必要な協力を要請することができ、さらに、要請を受けた者が正当な理由がないのに当該要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる、とされています。

「緊急事態宣言」は、特措法32条に根拠があり、緊急事態宣言の実施区域内の都道府県知事は、例えば、次のような措置(緊急事態措置)を行うことができるとされています。

・外出自粛の要請、興行場・催物等の制限等の要請・指示・命令(45条)

・住民に対する予防接種の実施(46条)

・医療提供体制の確保(47条から49条まで) 等々

このように見てきますと、特措法においては、都道府県知事が意外にも大きな権限を持っていることが分かります。

損失補償に関する規定も設けられていますが(特措法62条及び63条)、検疫を行うための施設使用、臨時の医療施設を開設するための土地使用をした場合等や、医療の実施要請に基づき患者に対する医療を行った医療関係者がそのために死亡や負傷した場合等に限られています。

今まで幾度となく報じられているように、特措法においては、休業要請が行われ、その要請に任意に従い営業を自粛した事業者が被る損失を補償する旨の規定は設けられていません。

特措法に損失補償の規定が設けられていなくても、理論的には、憲法29条3項に基づいて直接請求できる余地があるかもしれませんが、この憲法に基づく直接請求が認められるのは、特定人が財産権の本質を侵害された場合であると一般的に解釈されているため、今回のように社会全体で様々な業種の多数の事業者が休業している状況では、憲法に基づく直接請求は難しいと考えられます。

また、憲法で保障されている基本的人権との兼ね合いから、諸外国で行われているロックダウン(都市封鎖)のような強力な措置は、日本では今のところ講じられてはおらず、せいぜい外出自粛を「要請」できることが特措法45条において定められているくらいです。

このブログを執筆している令和3年9月15日現在、間もなく自由民主党の総裁選挙が行われることとされており、その後には衆議院選挙が予定されています。

誰が次の内閣総理大臣に就任するにせよ、政治の新リーダーには、1日でも早く国民が安心・安全な生活を送ることができるよう、新型コロナウイルス感染症の流行を収束させるため、憲法の下で認められる最大限の方策を講じてもらいたいものです。

弁護士 伊藤昌一