2020
06
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残された配偶者のための仕組み~「配偶者居住権」

この4月1日から、40年ぶりに改正された民法(相続法)により創設された「配偶者居住権」がスタートしました。私たちの身近に起こる相続に関わる制度ですので、この機会にご紹介させていただこうと思います。

1 配偶者居住権とは

配偶者居住権は、生存配偶者に住み慣れた家で余生を過ごすことを認めようとする仕組みです。急速に進む高齢化社会の中で、生存配偶者を優遇する観点からもうけられました(民法1028条~1036条)。
これまでは遺産分割で争いのあるケースで生存配偶者が住み慣れた家で暮らし続けようとすると、事実上、家と土地をワンセットで取得する方法などしかありませんでした。しかし、高価な家と土地を取得するのではそれだけで法定相続分を超えてしまいます。それでは預貯金などの資産を取得することができないばかりか、他の相続人に超過する分を支払って清算しなければならないことにもなりかねず、生存配偶者としては家の取得を諦めて出て行かざるを得ない、という結果に追い込まれてしまうのです。
そこで、家と土地を、家で居住する権利とその権利の制限を受ける所有権に分けて、家と土地の所有権を子どもなど他の相続人に取得させ、生存配偶者はそのまま家に住み続けて余生を送ることにすれば、これまでよりも柔軟な解決が期待でき、すみやかに遺産分割を終えるこができそうです。

2 配偶者居住権の発生要件

⑴ 居住していること
夫(妻)が亡くなる際に、生存配偶者が家に居住していることが必要です。
亡くなられた夫(妻)が居住していたことまでは要件とされていませんので、別居していても大丈夫です。
⑵ 所有していたこと
亡くなった夫(妻)が家を所有していたことが必要です。
生存配偶者と共有していても構いませんが、第三者と共有している場合には認められません。
なお、所有の有無は、家が登記されている場合には登記内容にしたがって判断できますが、未登記の場合には、例えば建築費や固定資産税を負担していたかなどの実態にしたがって判断することになります。
⑶ 法律上の夫婦であったこと
内縁関係にある夫婦でも良いのかという問題です。
法制審議会において検討されましたが、結局、判断基準の明確性が優先され、法律上の夫婦であることが求められました。内縁関係にある夫婦や、いわゆるLGBTのパートナーには認められません。

3 配偶者居住権の取得方法

配偶者居住権は、相続が発生すれば自動的に取得できるものではありません。次のいずれかの方法によらなければ取得することができませんので、ご注意下さい。
① 遺言により遺贈の目的として明記する方法
遺言で配偶者居住権を遺贈する旨を明記しておけば、相続の発生により取得することができます。勿論、遺贈ですから生存配偶者は配偶者居住権を取得せず放棄しても構いません(民法986条)。法律には書かれていませんが、死因贈与契約によることでも構わないようです。
なお、遺言で「配偶者居住権を相続させる。」と表現しても、遺贈の趣旨と解釈することになるようです。そのように解釈しないと、生存配偶者が配偶者居住権の取得を望まない場合に強制する結果になってしまうからです。
② 遺産分割協議・調停において合意する方法
③ 家庭裁判所裁判官に審判(判決)で認めてもらう方法

4 配偶者居住権の経済的メリット

生存配偶者には、配偶者居住権を取得する上で、経済的なメリットが認められます。この経済的メリットを具体的なケースに基づいてご説明しましょう。
(ケース)
相続人は80歳になる配偶者Aと亡くなった夫(妻)の連れ子Bの2人です。遺産は、時価3000万円相当の自宅の家・土地と預貯金1000万円の総額4000万円、配偶者居住権の財産価値は1000万円とします。
生存配偶者は、亡くなった夫(妻)と結婚して30年になります。
【ケース①】遺産分割協議もしくは審判により配偶者居住権を取得した場合
⑴ Aが配偶者居住権を取得してもその資産価値は1000万円にとどまります。遺産総額は4000万円で、配偶者と子どもの法定相続分はいずれも2分の1の2000万円相当になりますので、Aは2000万円から1000万円を控除した1000万円相当の資産を更に取得することが可能です。
⑵ これまでは、このようなケースで家に住み続けようとするとAは、3000万円相当の家と土地を取得することを迫られ、そうなると法定相続分2000万円を1000万円超過してしまうことになります。そのため、超過分1000万円をBに支払って家と土地を取得するか、居住を諦めるか、という二者選択を迫られることになりがちでした。
【ケース②】遺贈に基づいて配偶者居住権を取得した場合
⑴ このケースでは、配偶者居住権の財産的価値である1000万円を遺産に含めなくて良いことが原則になりました(民法1028条3項、903条4項)。生存配偶者はもっと優遇されることになったのです。
したがって、遺産は、家・土地3000万円から配偶者居住権の価値(負担)1000万円を引いた2000万円及び預貯金1000万円の計3000万円になります。したがって、Aは配偶者居住権を取得した上で、さらに3000万円の法定相続分2分の1である1500万円相当の資産を相続取得することが可能になります。
⑵ これまでは、亡くなった夫(妻)から家と土地を遺贈により取得すると遺産の先渡しとして取り扱われ、遺産に加えなければなりませんでした。このケースでは、遺産は4000万円のままで、法定相続分2000万円から配偶者居住権1000万円を控除した1000万円の資産取得額になりますから、民法改正後に比べると500万円低かったのです。これでは、長年連れ添った生存配偶者に無償で自宅を遺贈しようとした夫(妻)の気持ちを生かせない結果になっていたのです。
⑶ そこで、婚姻期間が20年以上にわたる夫婦の場合には、遺贈で取得した配偶者居住権を遺産としてカウントしなくても良いことを原則として、長年連れ添ってきた生存配偶者により多くの資産を取得させることにしたのです。

5 関連する問題

⑴ 配偶者居住権の財産的評価
明確ではありません。おそらく、配偶者の年齢から配偶者居住権の設定年数を割り出した上で、家と土地の客観的価値を配偶者の居住権とその制限のある所有権に割り振って算出することになると思われます。
家の築年数や配偶者の年齢にもよりますが、この権利は処分できないこともあり所有権に比べて一定程度低くなります。
⑵ 経費負担
配偶者居住権を取得した場合、家の維持・管理に要する通常の必要費は配偶者が拠出しなければなりません。
例えば、家にかかる固定資産税を支払った所有者は配偶者に求償することができますので、求償されれば配偶者はこれを清算しなければなりません。
⑶ 処分・増改築
配偶者居住権は譲渡などの処分をすることができません。家を増改築しようとする場合、所有者に承諾を得なければなりません。承諾を得ないで増改築を行うと、所有者から是正勧告を受け、これにしたがわなければ明け渡さざるを得なくなってしまいます。
⑷ 登記
配偶者居住権は登記することができ、登記すれば第三者にも対抗することができます。
ただし、土地を処分されてしまった場合にどうなるのかという問題があります。家が存在する土地を取得しようとする者が現地を確認せず、家の使用状況・権利関係を調査せずに購入することは常識的に考えられないことです。したがって、第三者に配偶者居住権を主張できるケースはあると思います。

6 配偶者短期居住権

最後に、配偶者短期居住権をご説明して終えることにします。
生存配偶者は、配偶者居住権の発生要件さえ満たしていれば、配偶者居住権を実際に取得していなくても、一定期間、無償で住み続けることができます(民法1037条~1041条参照)。
これを配偶者短期居住権といいます。
一定期間は、基本的に相続が発生してから6か月間になります。ただし、6か月経過時点において遺産分割協議中で家を誰が取得するのか決まってなければ決まるまで居住できます。また、遺贈や審判により家の所有権の帰属が決まっていた場合には、その所有者から退去を求められてから6か月間、居住していられます。

いずれにしましても配偶者居住権の仕組みは始まったばかりですので、今後の運用次第というところもあろうかと思われます。立法する際の検討状況等をお知りになりたい方は、法制審議会(民法改正債権関係部会)や国会の議事録が公開されていますので(第196回国会法務委員会第19号(平成30年6月8日)、法務省や国会のホームページでご確認ください。
なお、具体的なご相談は、弁護士にしていただくことが望ましいです。

弁護士 長田正寛