2022
09
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旧統一教会の問題について

今年7月20日に安倍晋三元内閣総理大臣が奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃されて死亡した事件以降、犯人の供述をきっかけに、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会と一貫して表記します。)と政治家との関係が問題視され、連日、ニュースやワイドショーなどで報道されています。

旧統一教会については1980年代から取り沙汰されており、いわゆる霊感商法や勧誘行為などが社会問題となっていました。

全国各地で旧統一教会に対して損害賠償を求める裁判が起こされ、ここ札幌においても例外ではありません。

例えば、札幌地方裁判所平成26年3月24日判決は、旧統一教会の元信者、その家族又は友人である原告らが、信者らの行った違法な勧誘行為により、献金や商品の購入をさせられたとして、献金相当額、商品購入相当額、慰謝料などの支払いを求めた事案において、原告らの一部について、信者らの違法行為によって、その信仰について自由な意思決定を阻害され、多額の出費を余儀なくされたとして、請求を一部認容しました。

この判決では、宗教における伝道・教化活動が違法となる基準として、次のように述べられています。

「一般に、特定の宗教の信者が、当該宗教の教義を広めるため宗教団体への加入を勧誘し、教義の学習を進めてその学習に要する費用を収受し、献金を促してこれを収受し、宗教団体の活動への参加を求める行為(伝道・教化活動)は、信教の自由に由来する宗教活動として許容されるべきものである。もっとも、宗教活動が宗教活動であるが故に全くの自由であるというわけではなく、そこには自ずから内在的な制約があるのであって、伝道・教化活動が、社会通念に照らし、外形的客観的にみて不当な目的に基づくものと認められ、かつ、その方法が社会的に相当と認められる範囲を逸脱し、その結果相手方の自由意思を阻害したものと認められる場合には、たとえそれが宗教活動の名の下に行われたものであっても、違法であるというべきである。」

また、札幌地方裁判所平成13年6月29日判決は、旧統一協会の元信者である原告らが、協会ないしその信者組織の違法な経済活動ないし伝道活動によって損害を被ったとして、献金相当額、入教関係費相当額、慰謝料などの支払いを求めた事案において、原告らに対する一連の勧誘活動などは、社会的にみて相当性があると認められる範囲を逸脱した方法及び手段を駆使した、原告らの信仰の自由や財産権などを侵害するおそれのある違法な行為というべきであるとして、請求を一部認容しました。

この判決では、宗教への勧誘活動などが違法となる基準として、次のように述べられています。

「特定の宗教の信者が、その属する宗教団体への加入を勧誘し、教義の学習を勧奨してその費用を収受し、献金を慫慂してこれを収受し、宗教団体の活動への参加を求めることは、信教の自由により保障された宗教活動ということができるが、他面、それらは、その相手方の信教の自由を始めとする基本的人権を侵害するおそれもあることにかんがみると、自ずから内在的な制約があることを免れない。そして、それらの宗教活動が、社会通念に照らし、外形的客観的にみて不当な目的に基づくものと認められ、また、その方法や手段が相当と認められる範囲を逸脱し、その結果、相手方に損害を与えるおそれがあるような場合には、たとえそれが宗教教義の履践の名の下に行われたものであっても、信教の自由としての保護の域外にあるものとして、違法性を有すると判断すべきものである。特に、その不当な目的が巧妙に秘匿されているため、善意の相手方が個々の行為について外形的に任意に承諾していると認められる場合であっても、その目的を知った場合にもなおこれに承諾を与えたであろうと認められる特段の事情がない限り、その承諾の存在は、何ら上記の違法性の判断を妨げるものではない。」

これらの判決が示しているとおり、前提として、いかなる個人にも団体にも信教の自由が認められています。どのような内容の教義であっても、それぞれに信仰や解釈の違い、考え方の違いがあるため、そこに第三者が立ち入ることはできませんし、また、立ち入るべきではありません。

しかしながら、外形的、客観的に法律に違反する行為があり、それによって第三者の権利や利益を侵害するような事態が生じれば、法的責任を負うのは当然です。宗教行為だから、という言い訳は通りません。

私たちは、メディアやインターネットなどから流れてくる無限の情報を賢く取捨選択しながら、旧統一教会の問題について冷静に考えていく必要があるように思います。

弁護士 伊藤昌一